2012年5月30日水曜日


猿が見つけた花巻温泉。そこを愛したのは宮沢賢治だけではないんです。

「湯は湯宿のすぐうらを流れている霧生川の、もとは川底であったという。
自然の岩だたみがそのまま残されていて、透き通った湯がこんこんと
湧き出していた。佐喜枝のほかには誰もいない。吹雪の捻りと、霧生川の
せせらぎとが聞こえてくるばかりであった。」
田宮虎彦「銀心中」より


花巻というと、誰もが思い浮かべるのが宮沢賢治。
言わずと知れた文豪ですが、今回は田宮虎彦をご紹介します。
彼は戦時下の重圧と結核に耐えながら執筆を続けた執念の人です。
名作の誉れ高い「落城」と聞けば、思い出す人も多いのではないでしょうか。

文頭に取り上げた「銀心中」は彼が43歳の作品。
「銀」とは?
これは鉛温泉を表しているようです。
主人公は、夫の甥に恋をし、花巻まで追いかけます。
しかし交際を断られ失望ののちに剃刀で自殺。
白く舞う雪に剃刀の銀。
鉛温泉を銀温泉と置き換えることにより、
主人公の底光りするひたむきな人生を描いた、
田宮の力量に感心させられる作品になっています。

花巻温泉の魅力についてはまた次回。

0 件のコメント:

コメントを投稿